グランドセイコーを生み出すマニュファクチュールは、高級腕時計が求める高い精度と信頼性を満たすスプリングドライブを完成させた。機械式とクォーツ式のメリットを兼備した、第3のムーブメントの独創性を探るとともに、搭載モデル3選も紹介する。
高い技術力を持つグランドセイコー
セイコーは1969年に世界初のクォーツ式時計を発売し、1999年には世界初のスプリングドライブ式時計を発売した。
現在用いられる駆動方式3種のうち2種はセイコー発であり、スプリングドライブはグランドセイコーが誇るマニュファクチュールで製造されている。
グランドセイコーの世界展開や、世界標準を目指す技術力について見ていこう。
世界と並ぶ国内ブランド
1960年、グランドセイコーはスイスの高級腕時計に匹敵する高精度を実現し、セイコーが展開するブランドのひとつとして誕生した。
翌年には輸入関税の緩和により海外勢力との競争は激化するが、グランドセイコーはブランド戦略と技術向上によって競争力を高めていく。
やがて、精度と信頼性を追求した機械式とクォーツ式、さらに第3の駆動方式「スプリングドライブ」によって海外市場での売上高を伸ばしていったが、グランドセイコーにはターゲットをビジネスパーソンに絞るという制約があった。
そして2017年、グランドセイコーはセイコーが擁する他ブランドから独立する。
グランドセイコーはドレスウォッチもスポーツウォッチも手掛ける高級腕時計ブランドとして生まれ変わり、誕生から60周年を迎えた2020年には海外市場での展開をさらに加速していったのだ。
《 1999年12月に発売された初代スプリングドライブ。SSケースで価格は25万円、18Kケースでは50万円、クレドールから発売されたプラチナケースのモデルは100万円だった(いずれも当時の価格)。 》
高い技術力とマニュファクチュール
グランドセイコーは精度や実用性で最高峰の腕時計を目指しており、ムーブメントの設計から部品製造、研磨、ケーシングまで妥協を許さない時計づくりを行っている。
グランドセイコーの機械式時計は「雫石高級時計工房」(岩手県雫石町)、クォーツ式とスプリングドライブ式時計は「信州 時の匠工房」(長野県塩尻市)が製造を担い、いずれも世界有数のマニュファクチュールだ。
信州 時の匠工房では年差±10秒の高精度クォーツを生み出し、20年以上の歳月をかけて革新的な駆動方式スプリングドライブを完成させた。
信州 時の匠工房を構成するマイクロアーティスト工房では精鋭の技術者を集め、2016年には最大約8日間のパワーリザーブを誇る「Cal.9R01」を発表している。
《 グランドセイコーのスプリングドライブ式モデルは、長野県塩尻市にある「信州 時の匠工房」で製造される。 》
スプリングドライブとは?
複雑機構を追求する老舗メーカーも多いなか、駆動方式の根本的な改革を行うのがセイコーあるいはグランドセイコーの特色である。スプリングドライブとは何か、その独創的な機構について見ていこう。
独自技術によって開発された駆動機構
1999年に誕生したスプリングドライブは、機械式とクォーツ式の利点を併せ持つ、新機軸の駆動方式である。
信州 時の匠工房が20年以上の研究開発の末に生み出した革新的な機構であり、セイコーおよびグランドセイコーのみが使用できる。
2004年には、高級腕時計に相応しい品質を備える、グランドセイコー専用のスプリングドライブが完成した。
200以上の精密部品を熟練職人が0.01mm単位で加工・調整する高精度なムーブメントは、世界から高い評価を得ている。
《 スプリングドライブは200以上のパーツから構成される。写真は自動巻きスプリングドライブCal.9R86に用いられているパーツ。 》
クォーツ時計と機械式時計の違い
クォーツ式はICと水晶振動子を用いて1秒を正確に刻み、電池とモーターによって駆動する。精度が確保しやすいため大量生産に向くが、トルクが小さいため重い針を動かせず、構造的に複雑機構の搭載も難しい。
機械式は巻き上げた主ゼンマイがほどける力を動力源とし、ヒゲゼンマイやテンプ、アンクル、ガンギ車といった機械的構造で調速を行う。
トルクが大きく複雑機構の搭載にも向くが、クォーツ式とは振動数の差が大きく、精度の追求には限界がある。
スプリングドライブは主ゼンマイを動力源としてICと水晶振動子で調速を行うため、大きなトルクと高精度を両立できるのだ。
《 スプリングドライブ独自の調速機構が「トライシンクロレギュレーター」。輪列機構からくるエネルギーが磁石を備えたローターを回転させることで発電。そのエネルギーでICと水晶振動子が作動し、歯車の回転速度をコントロールする。 》
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