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時計経済観測所/スイスの時計輸出、「ここ80年で最悪」 の25%減

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  • 時計経済観測所/スイスの時計輸出、「ここ80年で最悪」 の25%減


    新型コロナウイルス感染拡大は収束の気配を見せず、欧米では第2波が深刻化し、日本においても第3波の警鐘が鳴らされている。こうしたコロナ禍にあって、スイス時計の輸出が大きく落ち込んでいる。気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が最新の統計データから、世界と日本の現状と展望を考察する。
    磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama 安堂ミキオ:イラスト
    スイスの時計輸出、「ここ80年で最悪」 の25%減

    高級時計市場が一気に縮小していることが、このコラムでよく使っているスイス時計協会(FH)の統計にはっきりと現れてきた。同協会が発表した2020年1月から10月までのスイス時計の世界向け輸出額は、累計で133億2710万スイスフラン(約1兆5220億円)と、2019年の同期間に比べて25.8%もの大幅減少となった。新型コロナウイルスの蔓延で、国際間の人の移動が「消滅」するなど、経済活動が止まったことが、時計需要を直撃した。同協会はレポートで、「この80年で最悪の落ち込み」だと指摘するなど、時計マーケットは未曾有の事態に直面している。
    主要輸出先への輸出額が大幅に減少

    10カ月間の統計では、スイス時計の主要輸出先30カ国・地域のうち、プラスになっているのは、中国本土とオマーン、アイルランドの3カ国だけ。残りの27カ国・地域は揃って2桁の減少となった。
     主要輸出先で減少率が大きいのは香港の40.8%減、フランスの39. 0%減、韓国の39.3%減といったところだが、その他も軒並み20%を超す大幅な減少となった。米国は20. 9%減、英国は29.1%減である。一方、中国本土向けは11.3%増と大きく伸びた。
     10月まででは、昨年まで不動のトップの座を守っていた香港が3位に転落。昨年3位だった中国が、2位の米国を抜いてスイス時計の輸出先トップに躍り出た。日本は昨年同期間に比べて31.0%減となったものの、昨年同様の4位を保っている。
     2020年は(原稿を書いている時点で)まだ11月と12月を残しているが、新型コロナウイルスの感染者が欧米で再び増加、ロックダウン(都市封鎖)に再度踏み切るところも出ており、需要回復は見込み薄。年末のクリスマス商戦も大打撃を被ることになりそうだ。
     年間の輸出額は2019年まで3年連続で増加を続けており、直近のピークだった2014年の225億5770万スイスフラン(2兆5770億円)を2020年は上回ると期待されていた。ところが新型コロナウイルスの影響で4年ぶりの減少は確定的で、しかも170億スイスフラン程度にとどまるのではないかと見られている。
     10月単月の輸出額を見ると、上位30カ国・地域中、12がプラスに転じている。全体の輸出額も7.1%減と、減少率は小さくなっており、これを「底入れ」の気配だと捉える向きもある。だが、感染再拡大と共に、欧州を中心に減少率が再び大きくなっている。
    新型コロナウイルスの蔓延具合と連動する時計市場

    台湾向けは10月までの累計で14.0%減と、他の国・地域に比べて落ち込みが小さく、新型コロナウイルスの封じ込めに成功してきた効果が時計販売にも出ているとみられる。10月に至っては1.4%減にまで下げ止まってきた。総じて、時計マーケットの動向は、新型コロナウイルスの蔓延具合と連動していると言える。  ところが、日本は感染拡大が他国に比べて落ち着いているにもかかわらず、落ち込みは欧米並みに大きい。10月単月の落ち込みは17.4%減と、英国の8.1%減や米国の5.3%減を上回った。消費の落ち込みは他の国々よりも深刻な状況になっているとみることもできる。  昨年10月からの消費税率の引き上げによる、消費減退が根強く残っている。コロナ禍以降は、ひとり一律10万円の定額給付金で、夏場までは小口の消費が増えたが、年末に向けて、再び手元資金が減っていることもあり、消費の引き締めに拍車がかかっている。  それに加えて、生活不安がジリジリと高まっていることが時計消費に影を落としている。全日空(ANA)が冬のボーナスをゼロとし、希望退職も募集すると発表。年収ベースで3割減るという話が一気に広がった。この「ANAショック」もあって、消費者が財布の紐を一気に引き締めている。新型コロナウイルスの影響による企業収益の大幅な悪化が次々に明らかになっており、リストラなど雇用不安が台頭しているからだ。  それでも、労働力調査の統計数字を見ると、「正規雇用」は新型コロナウイルスが蔓延した4月以降も増え続けている。一方の「非正規雇用」は大幅な減少が続いている。つまり、正社員のリストラはまだまだこれからだということを物語っているわけだ。  時計市場の動向をみていると、世界の消費が落ち込む以上に、日本の消費は大きく落ち込むのではないかという、危うさを感じる。
    磯山友幸

    経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。

    http://www.hatena.ne.jp/isoyant/



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