パネライは高級時計業界において、ハイテク素材や時計製造以外の産業プロセスを応用して、アバンギャルドでありながらパネライらしい腕時計を開発するイノベーターとしての地位を確立している。そんなパネライの「ルミノール マリーナ DMLS 44MM」は、紛れもなく厳粛な美学を持つ腕時計だ。パネライが「Tutto Grigio」(イタリア語で「すべてのグレー」の意)というニックネームを付けたそのモノクロームな佇まいには、多くの最先端技術が駆使されている。中でもケース素材の先進性には刮目すべきものがあった。
《 「ルミノール マリーナ DMLS - 44MM」。Ref.PAM01662。自動巻き(Cal.P.9010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。DMLSチタンケース(直径44mm、厚さ14.2mm)。30気圧防水。スポーテック™ストラップ。108万4000円(税込み)。2020年発表。 》
Originally published on watchtime.com Text by Mark Bernardo 2021年9月14日掲載記事
「LABORATORIO DI IDEE(アイデアの工房)」から生み出された、革新的なケース素材
時計の水準と性能を高める技術革新を研究し続ける姿勢を、「LABORATORIO DI IDEE(アイデアの工房)」というフレーズで体現するパネライ。フィレンツェ本社の研究開発部門には約50人の高度専門技術者を擁し、デザイン部門と緊密に連携して作業しながら画期的な製品を追求している。
時計業界でいち早く「DMLS」を採用、驚くほどの軽量性を実現
「ルミノール マリーナ DMLS - 44MM」にも多数の先進技術が用いられている。その中でもまず言及すべきは、「DMLS」という技術を用いている点だ。これは"Direct Metal Laser Sintering"の頭文字を取ったものであり、つまり直接金属レーザー焼結法といわれる3Dプリント技術のことである。これまで鋳造や鍛造といった金属加工では不可能だった設計、例えば中空の特殊な形状などの製造を可能とした技術であり、ほとんどの金属合金を高精度に造形できることから、金属パーツを多用する航空宇宙産業や自動車業界などで注目されてきた。パネライはこのDMLSを本モデルで初めて採用したのだ。高出力の光学レーザーでチタンの粉末を焼結し、内部に空洞を設けながら一度に30ミクロン(0.03mm)ずつ形成するという方法で、直径44mmのチタニウムケースを完成させた。結果として、ミドルケースの重量は18gという信じがたいほどの軽量性を実現している。DMLSで中空構造にすることにより、通常のミドルケースの金属量より30%削減したのである。
《 DMLS、つまり直接金属レーザー焼結法といわれる3Dプリント技術で製造されたケースは中空構造により驚くほど軽量で、かつ表面の質感は美しいマット仕上げとなっている。 》
2016年に自社で開発した複合素材「カーボテック™」で深まるモノクロームのニュアンス
次いで紹介するのが、高度な複合素材であるカーボテック™をベゼル、リュウズ、リュウズプロテクターのレバーに用いている点だ。カーボテック™とは、1mmの厚さの中に7層の炭素繊維の薄いシートを繊維の向きが交互になるよう重ね合わせて、高圧温度下で圧着し、特殊な合成樹脂(高分子ポリマー「PEEK」)で固めたものである。パネライは外観の均一性を確保するために、長い炭素繊維シートを用いてプレスを施す。これらにより、表面には独特のカモフラージュ柄が生み出され、またその出方は切断の仕方によって変化するため、1本ごとに異なるユニークな仕上がりがもたらされるのだ。パネライは2015年に他の時計ブランドに先駆けてこの素材を採用した。カーボテック™には前述した以外にも、チタンやセラミックスよりも軽く、耐衝撃性も高いという特性がある。また耐腐食性に優れ、低アレルギー性を実現する素材でもある。
《 ベゼル、リュウズ、リュウズプロテクターのレバーには、独自素材のカーボテック™を採用。 》
実用性の高さも魅力
ケース形状はパネライの伝統的なクッション型をしており、その曲線にはシャープなファセットが施されている。3時位置には、パネライのルミノールとラジオミールを差別化させる特徴、つまりリュウズプロテクターが備えられている。リュウズはセーフティロック付きの2段階式で、これをケースに押し込むことで、防水性を確保し、不用意に針や日付表示が作動することを防ぐ。
文字盤はサンドイッチ構造をしており、アラビア数字とバーインデックス、そして時分秒針にはスーパールミノバが塗布されて、暗所でも視認性を担保する。
搭載されるのは、自社製自動巻きキャリバーP.9010だ。これは約3日間のパワーリザーブを誇るキャリバーP.9000の後継として2016年に発表されたものだ。厚さはわずか6.0mmであり、これはP.9000よりも1.9mmも薄くなっている。機能面の特徴は時針の単独操作が可能な点にある。時針だけを1時間ずつ前後にジャンプさせることができるため、タイムゾーンが変わる場合や夏時間と冬時間の間を移動する場合に便利な機能だ。
《 スモールセコンドとデイト表示、約3日間のパワーリザーブを備えたキャリバーP.9010。 》
最後にストラップに関しても触れておきたい。パネライは非常に耐久性がありながら着用性も高いストラップを提供することにおいて定評がある。ルミノール マリーナ DMLS - 44MMで採用されている厚手のストラップは、パネライが自社開発したスポーテック™ストラップだ。この表面はテキスタイル、内側はラバーの2面で構成されており、弾性と耐水性、そして耐久性の高さが魅力である。
2021年にも、時計全体の重量の98.6%をリサイクルベースの素材で製作したコンセプトウォッチ「サブマーシブル eLAB-ID™️」や、リサイクル素材によって構成されたeスティール™️で作られた「ルミノール マリーナ eスティール™」など、新たな素材を続々と発表したパネライ。その驚くような技術力でこれからも愛好家を魅了し続けていく。
Contact info: オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110
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