アラームウォッチのスペシャリストとして知られるスイスの時計ブランド、ヴァルカンが「50S プレジデンツ」コレクションからシルバーサンレイまたはホワイトラッカー仕上げの文字盤を備えた限定2モデルの「50S プレジデンツ 1947 リミテッドエディション」を発表した。
何年もの沈黙を破る、ヴァルカンからの待望の新作である。
Originally published on Montres De Luxe 2021年8月17日掲載記事
1947年から続くヴァルカンのアラームウォッチの歴史を紡ぐ新モデル
《 「50S プレジデンツ 1947 リミテッドエディション」。シルバーサンレイダイアルモデル。手巻き(Cal.クリケット V-11)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径42mm)。50気圧防水。アリゲーターストラップ。参考価格6350ユーロ。世界限定35本。 》
今から10年以上前の2010年に、ヴァルカンは自社製の手巻きムーブメントを直径42mmのケースに搭載した「50S プレジデンツ」コレクションを発表した。さまざまな文字盤のバリエーションを展開した後、ヴァルカンは市場の第一線から姿を消した。「Anonimo」と同じ株主であるルクセンブルクの実業家で大富豪のフラヴィオ・ベッカに買収された後、ヴァルカンからしばらく、新作発表やコミュニケーションがなされなかったのである。在庫を抱えたリテーラーたちは混乱していただろう。
何年もの沈黙を破って、ヴァルカンはいよいよふたつの新作を発表した。それがここで紹介する2モデルだ。ひとつはシルバーカラーのサンレイダイアル、もうひとつはホワイトラッカーダイアルを備えた各35本の限定モデルである。両モデルとも、インデックスや針にはローズゴールドカラーが施されている。
《 「50S プレジデンツ 1947 リミテッドエディション」。ホワイトラッカーダイアルモデル。手巻き(Cal.クリケット V-11)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径42mm)。50気圧防水。アリゲーターストラップ。参考価格6350ユーロ。世界限定35本。 》
既存モデルと比較して基本的に目新しい点はないものの、デイト表示の位置は6時から3時位置へと変更になっている。「もともとあった6時位置で全く問題はなかったのに」とも筆者は思う。開口部の形は台形(丸い場合もある)から、今作ではシンプルな長方形になった。
それ(と、価格が1000ユーロほど上がったこと)以外に関しては、今作のデザインは概ねオリジナルに忠実である。ステンレススティールのケースサイズは直径42mmで、50mの防水性能とアラーム機能を備えている。風防には丸みを帯びたサファイアクリスタルを採用。ストラップはハニーまたはマロンカラーのルイジアナ産のアリゲーターストラップで、プッシャーが付属したフォールディングクラスプが採用されている。
アラーム機構搭載の手巻きムーブメント、クリケット V-11は199点の部品から構成されている。香箱はふたつ搭載されており、ひとつは時・分・秒の計時機能のため、もうひとつは20秒間鳴動するアラーム機構用である。振動数は毎時1万8000振動、パワーリザーブは約42時間だ。
1947年以来、ヴァルカンの伝説を紡いできたアラーム機能搭載ムーブメント・クリケットの系譜を継ぎ、クリケット V-11は美しいドーフィン針を採用した時・分針、センターセコンド、デイト表示を備える。ヴァルカンといえば、「大統領のための時計」しての存在を確立してきたアラームウォッチの雄であることを忘れてはならない。
《 1947年の初代クリケットから続く、アラーム仕様のデザイン。 》
最後に「クリケット」の誕生についても振り返りたい。1943年、実用的なアラームウォッチをヴァルカンが開発していた頃、当時のヴァルカンのオーナー、ロベール・ディディシャイムはフランス人物理学者ポール・ランジュバンの訪問を受けた。
ラ・ショー・ド・フォンの工房の庭を散歩していた時、ランジュバンはコオロギ(クリケット)のような小さな虫が30m以上も離れた場所から届く音を奏でることができるのであれば、複雑な機構を搭載した小さな時計のケースでも同じようなことができるはずだとディディシャイムに語り、激励したのである。
この言葉に後押しされたディディシャイムは研究を続け、そして1947年に、ふたつの香箱を備えたムーブメントを発表し、昆虫の鳴き声にちなんで「クリケット」と命名したのであった。
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