「壊れない腕時計」G-SHOCKを筆頭に、常にどこにもない革新的な腕時計を世に送り出すカシオ。その進化、挑戦と革新を語る上で最も重要なキーワードが「CMF」、つまり「C」=「カラー」、「M」=「マテリアル」、「F」=「フィニッシュ」である。そこには、腕時計の感性価値を決めるこの3つの要素に対する開発者たちの並外れた情熱と絶え間ない技術革新への探求心が込められている。本特集では全3回にわたって、カシオの最新モデルを具体例として、この3つの要素にひとつずつフォーカスし、カシオのウォッチメイキングの核心に迫る。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura 渋谷康人:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
FINISH(フィニッシュ)にフォーカス
「フィニッシュ」=「仕上げ」すなわち表面仕上げや表面加工は、製品の魅力を左右する「CMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)」の中でも、他のふたつの要素以上に現在、劇的な進化が起きている、今いちばん注目したい分野だ。この分野においてもカシオは時計業界の最先端を走っている。その最新の挑戦と革新をご紹介しよう。
《 G-SHOCK AWM-500 (左)Ref.AWM-500D-1AJF/(右)Ref.AWM-500D-1A8JF 1989年に誕生し、何度も復刻されてきたG-SHOCK初のアナログモデル(液晶ディスプレイ付き)モデル「AW-500」。この伝説の名作を、G-SHOCKファーストモデルのメタル版「GMW-B5000」と同様の、ステンレススティール製ケースとベゼルの間にファインレジンの緩衝材を挟むフルメタル耐衝撃構造でメタル化したモデル。写真のブラックダイアルモデル(左)とシルバーダイアルモデル(右)のほか、ブラックダイアルにケースとブレスレットがゴールドカラーのモデルもある。世界6局対応電波ソーラー腕時計。パワーリザーブ約7カ月。SSケース(縦51.8×横44.5mm、厚さ14.2mm)。20気圧防水。各6万円(税別)。 》
メタル素材の魅力と緻密なデザインを引き立てる、凝りに凝った表面仕上げ
G-SHOCK誕生35周年を迎えた2018年、1983年に誕生した初代モデル「DW-5000C」を、スクエアデザインはそのままにフルメタル化し、絶賛された「GMW-B5000」コレクション。かつてG-SHOCKを愛用していた大人だけでなく、デザイン感度の高いファッショニスタや若者にまで注目されたこのモデルは、G-SHOCKの歴史に新たな1ページを書き加える大ヒット作であり、新たな定番となった。
素材自体に付加価値を与えるフルメタル化は、樹脂モデルと比較すると製造工程に格段のコストと時間、手間がかかる。特に時間と手間がかかるのが、ミラー(鏡面)仕上げやサテン仕上げなど、機械化が困難で熟練の作業者の手作業を必要とする表面仕上げだ。
価格を超越した手作業による表面仕上げ
初代デジタルモデルに続く「名作のフルメタル化」第2弾として、2020年11月に登場した初代アナログモデルのフルメタル版「AWM-500」コレクションは、この点から見ても、かつてない挑戦と進化を、具体的には“価格を超越した上質で凝った仕上げ”として実現した画期的なモデルである。
このモデルには、衆目を集めるゴールドカラーのモデルだけでなく、シルバーカラーのモデルもラインナップされ、ケースやベゼル全体にメタルの輝きを引き立てるIP(イオンプレーティング)処理が施されている。さらに「MR-G」や「MT-G」などのプレミアムモデルの鏡面仕上げと同様に、6万円台という価格からは信じられない、手の込んだ研磨による仕上げ加工を施してメタル素材の魅力を徹底的に引き出しているのだ。
特に注目したいのは、サテン仕上げとミラー仕上げの細かな使い分けである。ベゼル部分も素晴らしいが、驚かされるのはケースと滑らかな一体感をかなえたメタルブレスレットの表面仕上げだ。3コマ目まで3次元曲面化されているが、まさにその3次元曲面に対してサテン仕上げが入念に施されている。
さらに樹脂モデルのフラットな印刷から、3D化(立体化)された文字盤のアワーインデックスの素材と仕上げにもぜひ注目していただきたい。エッジが効いたフォルムで、見た目からはメタル製に見えるこの3Dインデックス、実は樹脂パーツに表面加工を施したものだ。この事実には驚かされるが、これはカシオ独自の技術で実現したものである。
加えて、ケースの裏蓋はメタル(SS)に耐摩耗性、耐傷性に優れたDLC(ダイヤモンドライクカーボン)加工を施したもので、その上からレーザー刻印が施されている。この点も「フィニッシュ」から見たこのコレクションの魅力だ。
《 (左上)カシオ独自の技術で、樹脂パーツとは到底思えないシャープなエッジと美しい輝きを実現した立体的な造形を持つインデックス。 (左下)ブラックDLC加工を施した後、レーザーで刻印したステンレススティール製のケースバック。しかも気密性に優れたスクリューバック式を採用。 (右)時計通を唸らせるこのモデルの“隠れたハイライト”が、3次元曲面を持つ3コマ目まで造形と、メタルブレスレットの上面と側面に施された手作業による美しいサテン仕上げ。 》
大人の品格と本格ダイバーズの機能を両立させた「オシアナス」
《 OCEANUS Cachalot/オシアナス カシャロ OCW-P2000-1AJF ビジネスマンを納得&満足させる上質さと機能を追求する「オシアナス」初の本格的なダイバーズモデル。薄型モデルに名付けられた「マンタ」に続き、愛称として付けられた「Cachalot(カシャロ)」は、最大潜水深度約3000mと海洋生物の中でも「最高レベル」に驚異的な潜水能力を誇るマッコウクジラのこと。ダイバーズモデルながら電波時計機能、Bluetoothによるスマートフォンリンク機能で究極の精度も実現。さらにスマートフォンの専用アプリは潜水位置と時間を自動記録するダイビングログ機能を備える。Bluetooth搭載・世界6局対応電波ソーラー腕時計。パワーリザーブ約5カ月。チタンケース(縦51.8×横48.5mm、厚さ15.9mm)。ISO規格200m潜水用防水。23万円(税別)。 》
「オシアナス」は“エレガンス・テクノロジー”を掲げた、カシオの中でも最もオーセンティックでクラシックな位置付けのアナログウォッチである。2020年に登場した本格ダイバーズウォッチ「カシャロ」は、この“エレガンス・テクノロジー”と「ISO規格200m潜水用防水」というハイスペックを両立させた、まさにカシオの挑戦と進化を具現化した画期的なダイバーズウォッチだ。
「G-SHOCK」や「EDIFICE(エディフィス)」など、飛び抜けた機能を誇るスポーツウォッチが他にあるにもかかわらず、オシアナスの開発陣は、あえてこの困難な挑戦と進化に挑んだ。
“エレガンス”をまとった本格ダイバーズウォッチ「カシャロ」
「なぜ『カシャロ』を企画したのか。それは“青い時計”からさらにオシアナスの世界を広げたいと考えたからです。オシアナスは海からインスピレーションを得た腕時計ですし、オシアナスを使ってくださるビジネスマンを筆頭に、時代もオン/オフを問わずに使えるエレガントな腕時計を求めています」と、商品企画を担当するカシオ計算機開発本部開発推進統轄部プロデュース部第一企画室リーダーの佐藤貴康(さとう・たかやす)氏は、その背景を語ってくれた。
《 (左)商品企画を担当する佐藤貴康氏。「オシアナスの世界はまだまだ広がります。『カシャロ』はその“新しい世界”のひとつです」。 (中)ベゼルに装備されるサファイアクリスタル製リングの12時位置への蓄光塗料の埋め込み加工の工程を示す模式図。手の込んだ手法を用いることでサファイアクリスタルへの蓄光の塗布と凝ったデザインを実現した。 (右)光で発電するため、ブルーの文字盤は光の透過性が考慮される。写真を見ると、ブルーに着色されているが、透けているのが分かる。 》
本格ダイバーズウォッチである以上、機能では一切の妥協は許されない。では、どんな技術を使ってISO200m潜水用防水機能を実現し、さらに“エレガンス・テクノロジー”をどう表現したのだろうか?
ISO規格200m潜水用防水が要求する高い防水性能は、オシアナス初のねじ込み式リュウズの搭載と、ビス留めのケースバックを通常の4本から倍の8本に増やすことで実現。また、ダイビング中でもはっきり時刻が読み取れる優れた視認性は、オシアナスの製品史上最も太くしっかりとした時分針と、12時位置に新技術で蓄光塗料を厚く埋め込んだサファイアクリスタル製レジスターリングをセットしたチタン製の逆回転防止ベセル、「スーパーイルミネーター」と呼ばれるLED照明でかなえている。
《 (左)高輝度LEDによる文字盤照明「スーパーイルミネーター」は、水中は言うまでもなく、夜間や暗所でも役立つ機能だ。 (右)ブレスレットを容易に延長できるエクステンション機能が搭載され、潜水時にダイビングスーツの上から着用できるようにラバーベルトなどに交換する手間も不要。 》
加えて、ダイビングスーツ着用時と日常使用の両立を考えて、メタルブレスレットのバックルには、エクステンション機能も組み込まれた。まさに本格的なダイバーズウォッチとしては申し分のない仕様と言える。
“ビジネスウォッチ”でもあるオシアナスには欠かせない“絶対精度”という基本性能は、時刻修正を自動で行う世界6局に対応したソーラー電波機能に加え、Bluetoothによるスマートフォンリンクによるスマートフォン専用アプリを使ったタイムサーバーによる時刻の自動修正、ワールドタイム機能でいっそう高められている。潜水モードでは潜水時間の計測をすると、専用アプリ上で潜水位置を含めたダイビングログを振り返ることができ、世界のダイビングスポットを巡るダイバーにとっては有用だ。
《 (左)オシアナス史上最も太い時分針。素材は軽量かつ剛性に優れたカーボンで、蓄光性能も高い。正逆回転が可能なデュアルコイルモーターの採用で時刻修正も高速だ。 (右)ねじ込み式リュウズはもちろんリュウズガード付き。 》
そして、オシアナスに不可欠な“大人も納得の上質なエレガンス”は、ケースやブレスレット、ベゼルや文字盤の「フィニッシュ」=仕上げによってもたらされた。具体的には表面仕上げや精密なコーティングである。
ケース、ベゼル、ブレスレットには、見た目を裏切る軽快な着け心地を可能にした軽量なチタンを採用。その表面には、平滑度を究極のレベルまで高め、最大限の輝きを引き出す「ザラツ研磨」が施され、その上から、水中の岩や砂などと接触しても傷を付きにくくする表面強化処理であるチタンカーバイド処理を施すことで、その輝きは守られ、保持されている。 《 (左)レジスターリングには耐傷性に優れたサファイアクリスタルを搭載。12時位置には蓄光を埋め込み、ゴールド&ブルーの蒸着加工を施すことで機能的な輝きを放つ。 (中)ダイビングシーンでしっかり使えるよう耐衝撃性を高め、かつ視認性の高い立体的な大型インデックスを搭載するために、文字盤とインデックスは別パーツで構成されている。右はOCW-P2000-1AJF用で、左がOCW-P2000D-2AJF用。 (右)光を透過するブルー文字盤。凝った作りのインダイアルフレームも文字盤から脱落することがないよう、山形カシオの立体成形技術が生かされている。 》
ISO規格の200m防水潜水時計として、ここまで高機能とエレガントなデザイン、快適な着け心地を実現した腕時計は、カシオのウォッチメイキングの成熟の証しであり、高級時計の世界を見渡しても稀有な存在である。
《 OCEANUS Cachalot/オシアナス カシャロ OCW-P2000C-2AJF ダイバーズウォッチとしては定番とも言えるスポーティーなレッド&ブルーカラーのレジスターリング、カジュアルなデュラソフト製のストラップを採用したモデル。メタルブレスレットモデルより手頃な価格にも注目。Bluetooth搭載・世界6局対応電波ソーラー腕時計。パワーリザーブ約5カ月。チタンケース(縦51.8×横48.5mm、厚さ15.9mm)。ISO規格200m潜水用防水。22万円(税別)。 》
《 OCEANUS Cachalot/オシアナス カシャロ OCW-P2000D-2AJF レインボーIP加工を施したレジスターリングに、ブルー&ゴールドの蒸着加工が施されたサファイアクリスタルを搭載したモデル。リュウズとプッシュボタンもゴールドIPで加工されている。Bluetooth搭載・世界6局対応電波ソーラー腕時計。パワーリザーブ約5カ月。チタンケース(縦51.8×横48.5mm、厚さ15.9mm)。ISO規格200m潜水用防水。限定1200本。25万円(税別)。 》
期待を超える! レインボーIP加工の可能性は無限大
《 2020年10月発売だがすでに完売となった、初のフルアナログフロッグマンのレインボーIPを駆使したスペシャルカラーモデル「GWF-A1000BRT-1AJR」。カラーのモチーフになったのは、ボルネオに生息する鮮やかな色彩のカエル「ボルネオ・レインボー・トード」。ステンレススティール製のベゼルにエッチング加工で凹凸を与え、レインボーIPを施し、さらに文字盤もマルチカラーとすることで、ボルネオ・レインボー・トードの皮膚感やカラーを表現した。 》
「オシアナス カシャロ」の1モデルのレジスターリングにも採用されている「レインボーIP(イオンプレーティング)加工」は、カシオの「フィニッシュ」=表面加工における挑戦と進化の中でも、これから最も注目しておきたい革新技術だ。
「イオンプレーティング」とは、真空蒸着法と同じように真空の中で、パーツの表面に薄膜を形成する「乾式メッキ技術」のひとつ。メッキしたい物質の分子を高温のプラズマ中を通過させることで、真空蒸着法よりも密着した丈夫な表面皮膜を作ることができる。
カシオは専門企業と共にこの技術の新たな可能性に挑戦し、「レインボーIP」という、虹色のグラデーションをメタルなどの表面に作ることに成功。2019年にバーゼルワールドで発表した「MT-G B1000」シリーズの限定モデルを第1号として、この技術を使った色鮮やかな製品を次々と開発し、発売している。
ひとつひとつ異なる色合いで持つ喜びも格別!
このレインボーIP加工によるフィニッシュは、形成できても耐傷性や耐久性に欠ける場合も多く、「やってみなければ分からない」という。だが、カシオのデザイン室によれば「実現できる色彩に無限の可能性がある」とのこと。まさに今、日々「挑戦と進化」が続いている技術だという。
しかも、このレインボーIP加工によるフィニッシュは「ひとつひとつ微妙に色味が違い、厳密には同じものはない」。これは時計好き、モノ好きにとって、こたえられない魅力のひとつだ。
上の写真のフルアナログフロッグマンのスペシャルモデルは、これまでに発売された、この技術を使ったモデルの中でも最も魅力的なものである。次はどんなレインボーIPモデルが登場するのだろうか? カシオのウォッチメイキングから、ますます目が離せない。
《 初のフルアナログフロッグマン「GWF-A1000」で採用されたフッ素エラストマー(樹脂)製ストラップ。このレッドカラーのストラップは、特殊な印刷加工によって明瞭な印字が可能になった。こうした技術があってこそ、「CMF」の可能性を大いに発揮できるのだ。 》
Contact info: カシオ計算機お客様相談室 Tel.03-5334-4869
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